広島大学 脳神経内科学 Hiroshima Univ. Clinical Neuroscience & Therapetics

研究について

  • 脳卒中グループ

    脳卒中グループでは、松本昌泰名誉教授(第3代教授)が行ってきたスタチンによる脳卒中再発予防のエビデンス確立を目的とした医師主導型の多施設共同臨床研究(J-STARS研究)といった介入研究、多施設共同の疫学観察研究(悪性腫瘍合併脳梗塞など)を数多く行い、脳卒中の臨床のみならず研究も行える脳神経内科医を育成しています。広島大学病院内の各診療科、歯学部、工学部、保健学科などとも積極的に共同研究を行っています。院内において多職種合同摂食・嚥下チームを立ち上げ、多職種チームの介入により脳卒中急性期における肺炎発症率が有意に減少することを初めて明らかにしました。歯学部と共同で行っている「口腔内環境と脳卒中」の研究は数多くの論文報告を行っており、血清歯周病抗体価によって多種多様な歯周病菌が脳卒中転帰や脳微小出血の有無、脳出血の血腫拡大、心房細動などに関連することや、う蝕(虫歯)原因菌と急性期脳出血後の経過との関連を報告してきました。「栄養と脳卒中」に関連する研究にも力を入れ、急性期脳卒中患者の適切な栄養評価、口腔内評価が転帰に関連することを示しており、今後国内の医療機関と連携を行い多施設共同研究も企画しています。広島県内においてはHARP研究(Hiroshima Acute stroke Retrospective and Prospective Registry Study)を立ち上げ、広島県内の一次脳卒中センターの急性期脳卒中患者の登録研究を行うなど、様々な医療機関と連携して脳卒中診療の質の向上を目指しています。

    • 脳卒中グループの写真です
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  • 神経変性疾患グループ

    神経変性疾患の病態診断、治療に関する各種基礎研究に加え、臨床研究にも積極的に取り組んでおり、筋萎縮性側索硬化症の多施設共同観察研究(CARP Study: Chugoku ALS Retrospective Prospective Study)を展開しています。
    基礎研究では、アルツハイマー病・パーキンソン病・脊髄小脳変性症・筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患の病態に関連する遺伝子・RNA・蛋白質レベルでの研究を行っています。ノックアウトマウス/ノックインの細胞・動物モデルを作製し、機能解析・病理学的検討を通じて、各疾患に関わる分子病態機構の解明と新たな治療法やバイオマーカーの開発に取り組んでおります。CRISPR-Cas9システムを用いたゲノム編集やiPS細胞を用いた研究手法も駆使して取り組んでいます。
    アルツハイマー病の研究では、近年はAPOEに特に着目し、アルツハイマー病モデルマウスを複数作成し、その病理学的検討、生化学的解析、機能解析などが進んでいます。また、アルツハイマー型認知症の原因タンパク質のひとつであるアミロイドβやタウの病態機序を細胞内小胞輸送に注目して検討しています。
    パーキンソン病、脊髄小脳変性症の研究では、新規病原遺伝子の発見とその機能解析を進めています。創薬スクリーニングにも展開したいと考えています。
    筋萎縮性側索硬化症の研究は、原爆放射線医科学研究所、川上秀史教授の指導のもと、丸山教授がNature誌に報告した、筋萎縮性側索硬化症原新規因遺伝子optineurinを中心に、その病態解析を進めています。
    近年で特筆すべきは、筋萎縮性側索硬化症の神経細胞に蓄積するリン酸化TDP-43が末梢神経の軸索中にも異常沈着していることを筋生検組織内の神経束で見出し、さらにこのリン酸化TDP-43の蓄積はまだ臨床診断基準を満たしていない早期のALS患者においても認めたことを論文報告しました(Kurashige T, Morino H, Murao T, Izumi Y, Sugiura T, Kuraoka K, Kawakami H, Torii T, Maruyama H. TDP-43 Accumulation Within Intramuscular Nerve Bundles of Patients With Amyotrophic Lateral Sclerosis. JAMA Neurol. 2022 Jul 1;79(7):693-701.)

    • 神経変性疾患グループの写真です
    • 神経変性疾患グループの写真です
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  • てんかんグループ

    私たちは、臨床てんかんのプロの育成を目指しています。ですがプロといっても、てんかんの診断や脳波の判読ができることを意味しません。一つの領域に卓越しているだけでは、臨床を大局的にみることができないからです。つまりinterprofessionalismの視点を大切にしています。そこでてんかんグループの臨床研究では、1)てんかん専門外来における臨床スキルのブラッシュアップに加えて、2)難治てんかん患者の術前精査としての長時間ビデオ脳波モニタリングなどの専門性を主軸とし、3)神経救急領域においてはICUでの各専門職との連携でCritical Care EEG(救急脳波)を評価し、臨床研究につなげています。また4)教育活動にも注力しており、主催する「脳波ウェブセミナー」には2019年から2022年までで延べ4000名以上の臨床医あるいは検査技師が全国から参加しています。5)学術面では各々のclinical questionにもとづいた研究立案をサポートしつつ、臨床に還元できる研究として、ケースレポートの作成から広島市内の基幹病院との多施設共同研究(てんかんレジストリ)の立ち上げ、Critical Care EEGの多施設共同研究(国内)の主導、そして、日本てんかん学会の若手部門(YES-JAPAN)への参画など若手医師の臨床研究をサポートしています。

    • てんかんグループ研究の資料です
    • (A) QJM 2021;114:893-94より引用
      (B) Epilepsia 2019;60:547-59より引用 (京都大学に出向)
      (C) Epileptic Disorders 2021;23:733-38より引用
      (D) Epilepsy & Behavior 2022;142:109211より引用
    • てんかんグループ研究の資料です
    • てんかんグループ研究の資料です
    • てんかんグループ研究の資料です
    • (A) 脳波勉強会
      (B) 多施設合同ウェブカンファレンス
      (C) 日本てんかん学会学術集会
  • 免疫性神経疾患グループ

    慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー・ギラン・バレー症候群などの末梢神経障害、重症筋無力症、多発性硬化症、視神経脊髄炎スペクトラム障害、抗MOG抗体関連疾患など神経免疫領域の疾患を対象にしております。臨床診断および病勢のバイオマーカー探索(神経超音波検査・MRIなどのNeuroimagingを含む)、疫学研究などを行っています。特に、神経超音波の研究では、以前報告した上肢末梢神経の基準値に加えて下肢末梢神経エコーにおける神経断面積の基準値を神経の分岐や合流などの解剖学的側面に注目して明らかにしました。神経超音波検査所見はEAN/PNSのCIDP診療ガイドライン2021で支持基準のひとつに採用され、世界的にも注目されています。
    免疫性神経疾患はもとより、他の疾患においてもグループの垣根を超え、実際に直面するclinical research questionを大切に研究していく姿勢を重要視しています。
    重症筋無力症、多発性硬化症では多施設共同研究にも取り組んでいます。
    近年では重症筋無力症、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー、多巣性運動ニューロパチーなど、多くの治験を引き受けています。組入れ基準などの参加条件がありますが、医療・医学の貢献に賛同いただける治験参加希望の方はお問い合わせください。

    • 免疫性神経疾患グループの写真です
  • 摂食嚥下栄養グループ

    神経疾患では摂食嚥下障害や栄養障害を来たすことが多く、適切な評価と介入を行うことが大前提かつ有力な治療法です。摂食嚥下障害については、誤嚥性肺炎の回避を目的とした臨床研究を疾患横断的に展開し多くの成果を出しています。特に脳卒中における、誤嚥リスク評価のための舌圧測定、咳テストの有用性を報告し、安全な食形態を提供するための舌圧値の指標を提案しました。栄養に関しては、栄養状態を評価する適切なマーカーの探索(CONUT scoreなど)と活用を提案し、栄養介入の特定臨床研究を展開しています。
    さらに、リハビリテーションと連携した、嚥下の介入試験も展開しています。
    摂食嚥下栄養には、多職種連携が必須です。当科では、広島大学病院の多職種連携摂食嚥下チームで長年大きな役割を果たしてきました。それを「多職種研究」という形で展開しています。広島大学の特性を活かし、医科歯科連携が活発になされていることが特筆すべき点です。

    • >摂食嚥下栄養グループ研究の資料です
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